ある晴れた早春の日曜日の午後、私たち夫婦は渋谷の家電量販店の掃除機売り場に立っていました。

目的は、もちろんお目当てのロボット掃除機を物色するため。

ロボット掃除機と言えば、忙しい共働き夫婦の強力な味方として、高価な家電にも関わらず爆発的に売れているというハイテク機器の一つです。

そして、共働き夫婦である私たちにも、ようやくそのささやかな恩恵を受ける時がやってきたのです。


ところが、世間の熱狂とは裏腹に、その家電量販店には、書き入れ時である日曜の午後というのに、客が全くいません。

狐につままれたような面持ちで売り場に並べてある商品をチェックすると、その謎はいとも簡単に氷解しました。

なんと驚くべきことに、その家電量販店の売り場には、ある〝大人の事情〟により、iRobot社の商品『ルンバ』が置いていなかったのです。


お目当てルンバが無いことが分かると、私たちは、すぐさま踵を返して、山手線に乗って渋谷から新宿のビックカメラに移動しました。

ヤマダ電機の売り場に寂しげに並んでいた国内電機メーカー産のロボット掃除機を一瞥もせずに…。


閑古鳥が鳴いていたヤマダ電機とは打って変わって、新宿西口のビックカメラのロボット掃除機売り場は活気に満ち溢れていました。

ただ不思議なことに、人々が群がっていたのは、ある一角のコーナーだけ。

もちろん、そこに鎮座していたのは、iRobot社の『ルンバ』です。

実は、この時、私たち夫婦は、ルンバのどの機種にするかは悩んでいたものの(だから、実際の使い勝手を店員の口から直接聞きたかったのです)、はなから他の国内メーカーの製品と比較しようなどとは考えていませんでした。

その理由は、極めて明白です。


通常、人は家電製品を購入するときに比較サイトなどで性能を見比べながら決断するはずです。

もちろん普通の掃除機であれば私たち夫婦もそうしたかもしれません。
ところが今回の買い物のターゲットは、ロボット掃除機。

普通の掃除機とロボット掃除機の違いは何か?

それは、ウィキペディアで、iRobotについて調べてみればすぐにわかります。

iRobot Corporation(アイロボット・コーポレーション)は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ベッドフォードに本社を置く、軍事用、業務用、家庭用のロボットを設計開発する企業。 

売上の中心は軍事用ロボットである。自律型家庭用掃除ロボット「ルンバ」や全自動フローリング洗浄掃除機「スクーバ」で知られている。また、爆発物処理やSWATで使用されている、軍事用ロボットパックボットも開発している。
 
iRobot は、マサチューセッツ工科大学のMIT人工知能研究所で働いていた、ロドニー・ブルックス、コリン・アングル(現CEO)、ヘレン・グレイナー(現UAV開発企業CyPhy Works社CEO)の3人が設立した会社である。ロドニー・ブルックスは現在、MITコンピュータ科学・人工知能研究所の所長を務めています
 

賢明な皆さんであればもうお分かりでしょう。

私たち夫婦が買おうとしていた製品は、只の家電ではなく、ロボット掃除機という名の〝知識集約型のAI製品〟だったのです。

この知識集約型のAI製品については、もはや比較サイトを閲覧するまでもありません。
アメリカの企業の圧勝です。

今から、その理由を説明しましょう。

  • 知識社会においては、リベラルであることと、グローバルであることが、勝者の条件となる
1980年代まで、日本の電機メーカーが生み出す製品は、そのデザイン、クオリティーとも世界一の称号を手にしており、その飛ぶ鳥を落とす勢いは、79年出版の書籍『ジャパン・アズ・ナンバーワン』のタイトルそのものでした。

ところが、1989年にベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦時代が終わりを告げ、90年代に突入すると様相が一変します。

IT化(知識社会化)と新興国による資本主義社会の拡大(グローバル化)が急速に進行する中、日本の電機メーカーの地位は、没落の一途をたどることになったのです。

ところが90年代に入ってシリコンバレーでICT(情報通信技術)革命が起こると、重厚長大の日本の電機メーカーは新しい時代にまったく適応できなくなりました

いまやマイクロソフト、アップル、グーグルなどグローバル企業の背中ははるかに遠く、かといって韓国・台湾・中国のメーカーのように下請けに徹することもできず、業績は凋落の一途を辿っています。

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それでは、なぜ、知識社会化とグローバル化が進行したことで、日本の電気メーカーが凋落してしまったのでしょうか?

それは、電気メーカーを始めとする日本の企業が持つ終身雇用制というシステムが、この新しく生まれた世界的な潮流に適合できず、機能不全を起こしてしまったからなのです。

この20年、日本企業から世界に通用するイノベーションはなにひとつ生まれていません

シリコンバレーには世界じゅうから多様な文化的背景を持った野心と知性にあふれた若者が集まってきますが、日本企業の上層部は日本人・男性・中高年・国内大学出身というきわめて同質な集団で占められています。

そんな彼らがどれほど知恵を絞ったところで、画期的なアイデアなど出てくるはずはないのです。 

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昔ながらの家電である普通の掃除機であれば、重厚長大で終身雇用の日本企業が作る製品が最も信頼できたでしょう。

私たちも、今までであれば、間違いなくパナソニックや東芝、日立などの大手メーカーの製品を手にとっていたに違いありません。

しかし、上記の理由から、AIを搭載したロボット掃除機では、日本の電気メーカーの製品は逆立ちしてもアメリカ企業のiRobot社の製品に勝てるわけがないのです。


その日、新宿のビックカメラから私たち夫婦が持ち帰ったのは、Google Home Miniで動作可能なルンバ890であることは、言うまでもありません。

Irobotheadquarters
  

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